クラウド会計で未払費用を漏れなく計上|決算の節税チェックポイントと仕訳

クラウド会計で未払費用を漏れなく計上し、節税につなげる方法を解説するアイキャッチ画像。カレンダー、請求書、仕訳画面のイラストで、年末のチェックポイントと具体的な処理の流れを分かりやすく図解している。
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銀行の残高だけを見て決算を終えてはいけない

確定申告や決算の時期が近づくと、多くの経営者やフリーランスの方は、クラウド会計ソフトに取り込まれた銀行口座の入出金明細を確認することに追われます。 「今年の12月31日までに支払ったものが経費になる」 「だから、なるべく年内に買い物を済ませて、経費を増やそう」 そう考えて、年末ギリギリに備品を購入したり、消耗品を買いだめしたりする光景は、毎年の風物詩とも言えます。

しかし、もしあなたが「支払った日=経費になる日」という感覚だけで決算を行っているとしたら、非常に大きな損をしている可能性があります。実は、税金の計算において最も重要なのは、「いつお金を払ったか」ではなく、【いつそのモノやサービスを使ったか】という点にあるからです。

たとえ年内にお金を払っていなくても、12月中に利用したサービスや、発生した費用であれば、それは今年の経費として計上することができます。これを専門用語で「未払費用(みばらいひよう)」の計上と呼びます。

これをやるのとやらないのとでは、最終的な利益の額が大きく変わり、支払う税金に数万円から数十万円の差が出ることさえあります。しかも、これはグレーな節税テクニックなどではなく、会計の正しいルール(発生主義)に従った、最もホワイトで推奨される処理なのです。

この記事では、クラウド会計ソフトの自動連携機能に頼りすぎて見落としがちな「未払費用」の正体と、それを漏れなく拾い上げるためのチェックポイントを徹底解説します。

なぜ「払っていないお金」を経費にできるのか

まず、会計の基本ルールである【発生主義(はっせいしゅぎ)】について少しだけ触れておきましょう。 私たちは普段、家計簿をつける感覚で「現金が出ていった時が支出」と考えがちですが(これを現金主義といいます)、ビジネスの会計では「サービスの提供を受けた時が支出」と考えます。

例えば、12月分の電気代を考えてみましょう。 12月1日から31日まで事務所でエアコンを使い、電気を消費しました。しかし、電力会社から請求書が届くのは1月に入ってからで、実際に口座から引き落とされるのは1月末だとします。

  • 現金主義(間違い):1月にお金を払ったから、来年の経費にする。
  • 発生主義(正解):12月に電気を使ったのだから、今年の経費にする。

クラウド会計ソフトで銀行明細だけを見ていると、1月の引き落としデータしか目に入らないため、自動的に「来年の経費」として処理されてしまいます。 しかし、決算においては、まだ引き落とされていないこの電気代を、手動で「今年の経費」としてねじ込む作業が必要です。これが「未払費用の計上」です。

何も新しいものを買う必要はありません。すでに使ったものを、正しい時期に経費として認めてもらうだけです。これこそが、資金を減らさずにできる【確実な節税】なのです。

クラウド会計ユーザー最大の盲点「クレジットカード」

未払費用の中で、最も金額が大きく、かつ最も処理を間違えやすいのが【クレジットカード】の利用分です。 クラウド会計ソフトは、クレジットカードの明細も自動で取り込んでくれるため、「連携しているから大丈夫」と安心している方が非常に多いのですが、ここに大きな落とし穴があります。

「1月引き落とし」の中身を見ていますか?

例えば、末日締め・翌月27日払いのカードを使っているとします。 12月1日〜31日にカードで買ったパソコンや接待費、消耗品代などの合計額(例えば30万円)は、翌年の1月27日に口座から引き落とされます。

このとき、クラウド会計の自動仕訳ルールが不十分だと、1月27日の引き落とし時に初めて「消耗品費 30万円」などの経費が計上される設定になっていることがあります。 これでは、30万円分の経費が【来期】に飛んでいってしまいます。今年せっかく30万円も使ったのに、今年の税金を減らす役に立っていないのです。

正しい処理のイメージ

クレジットカードを使った場合、本来は以下の2段階で処理をする必要があります。

  1. 利用日(12月中) 「消耗品を買った」という事実に基づき、経費を計上する。 (借方)消耗品費 / (貸方)未払金
  2. 引落日(1月中) 「カード会社にお金を払った」という処理をする。 (借方)未払金 / (貸方)普通預金

クラウド会計でカード連携をしている場合、明細の日付は「利用日」で取り込まれることが多いですが、AmazonなどのECサイトとカード明細が重複していたり、連携エラーで明細が飛んでいたりすると、この「12月利用分」が綺麗に帳簿に反映されていないことがあります。 決算時には、必ずカード会社のWebサイトで「12月利用明細(または1月請求明細)」をダウンロードし、そこに載っている買い物がすべて今年の帳簿に入っているかを目視でチェックしてください。

「給与」と「社会保険料」も1ヶ月ズレる

従業員を雇っている場合や、自分自身の社会保険料を払っている場合も、未払計上のチャンスがあります。特に「末日締め・翌月払い」の給与体系をとっている会社は要注意です。

12月に働いた分の給料は、今年の経費

「給与は毎月25日払い」という会社であれば、年内に支払いが完了しているため問題になりにくいのですが、「末日締めで、翌月10日払い」といった会社の場合、12月1日〜31日までの労働に対する給与は、翌年の1月10日に支払われます。

これも電気代と同じ理屈です。 「従業員は12月に働いてくれた」のですから、その対価である給与は、たとえ支払いが来年であっても、【今年の経費(未払費用)】として計上すべきです。 従業員が数名いれば、給与総額は数十万円〜百万円単位になります。これを計上し忘れると、税金が大きく跳ね上がります。

社会保険料の「会社負担分」も忘れずに

給与と一緒に支払う社会保険料(健康保険・厚生年金)も同様です。社会保険料は、通常「翌月末払い」です。 12月分の給与に対応する社会保険料は、1月末に支払います。 このうち、会社が負担する半分(法定福利費)については、12月分として未払計上が可能です。金額が大きいため、これも絶対に見逃せないポイントです。

決算整理仕訳という「最後のひと手間」

ここまで紹介してきた「電気代」「カード代」「給料」などは、普段のクラウド会計の自動連携だけでは、正確に「未払計上」ができていないケースが多々あります。 そのため、決算月(12月など)が終わった後に、【決算整理仕訳(けっさんせいりしわけ)】と呼ばれる手動の調整作業を行う必要があります。

「自動でやってくれないのか」と思われるかもしれませんが、クラウド会計ソフトは「銀行からいつお金が落ちるか」までは予測できません。「12月の電気代がいくらだったか」は、請求書が来るまでAIにも分からないのです。 だからこそ、私たち人間が、届いた請求書を見て、正しい数字を入力してあげる必要があります。

水道光熱費・通信費の「検針票」をかき集める

事務所の家賃や駐車場代は、毎月定額なので把握しやすいのですが、毎月金額が変動する「水道光熱費」や「通信費」は、意識して拾いに行かないと計上漏れが頻発します。

これらは通常、「使った月」の翌月や翌々月に請求が来ます。 つまり、12月にガンガン使った暖房の電気代や、年末の挨拶回りで使いまくった携帯電話の通話料は、年が明けた1月以降に請求書が届きます。これを経費に入れない手はありません。

チェックすべき書類と日付

手元にある請求書や検針票、あるいはWeb明細を確認してください。見るべきポイントは「請求日」ではなく、【利用期間(検針期間)】です。

  • 電気・ガス・水道 「11月○日〜12月○日」という期間が記載されている請求書を探します。この期間に12月が含まれていれば、その金額は今年の経費として計上可能です。(※厳密な日割り計算までは求められないことが一般的ですが、毎期継続して「12月検針分までを入れる」といったルールを決めておくことが重要です)
  • 携帯電話・インターネット 多くの通信会社は「末日締め」です。「12月利用分」と書かれた請求書(1月や2月に届くもの)は、全額が今年の経費になります。

これらを合計すると、数万円から十数万円になることも珍しくありません。領収書がないからといって諦めず、請求確定額のメールやWeb画面のスクリーンショットを根拠資料として保存しておきましょう。

クラウド会計での具体的な入力手順(決算整理仕訳)

では、集めた情報をクラウド会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生など)に入力していきます。 この作業は、普段の「取引登録」ではなく、【振替伝票(ふりかえでんぴょう)】という機能を使って手動入力するのが基本です。

ケーススタディ

  • 状況:12月分の電気代 15,000円が、1月27日に引き落とされることが確定している。
  • 決算日:12月31日

手順1:12月31日付で経費にする

クラウド会計ソフトの「振替伝票作成」画面を開き、以下の仕訳を入力します。

  • 日付:12月31日(必ず決算日にします)
  • 借方(左側):水道光熱費 15,000円
  • 貸方(右側):未払費用(または未払金) 15,000円
  • 摘要:12月分電気代(未払分計上)

【解説】 これで、お金はまだ払っていませんが、帳簿上は「今年の経費」として15,000円がプラスされました。同時に、貸方には「来年払う義務がありますよ」という意味の「未払費用」という負債が記録されます。

※勘定科目の使い分けについて 厳密には、継続的なサービス(電気代など)は「未払費用」、単発の購入(備品など)は「未払金」を使いますが、小規模な事業者であれば、どちらか一方(未払金など)で統一して管理しても大きな問題にはなりません。重要なのは「負債として計上する」ことです。

翌期首の「逆仕訳」を忘れると二重計上になる

ここがこの記事で【最も重要なパート】です。 多くの初心者が、手順1だけやって満足してしまい、翌年に痛い目を見ます。

年が明けて1月27日になると、銀行口座から実際に電気代15,000円が引き落とされます。 このとき、クラウド会計ソフトの自動連携機能は、銀行明細を拾ってこう提案してきます。 「1月27日に15,000円の出金がありました。勘定科目は【水道光熱費】で登録しますか?」

もし、ここで「はい(登録)」を押してしまうと、どうなるでしょうか。

  • 12月31日に、手動で「水道光熱費」を計上した。
  • 1月27日に、自動で「水道光熱費」を計上した。

なんと、同じ1回分の電気代が、2回経費になってしまいます。これは明らかな【二重計上】であり、税務調査で否認されるだけでなく、経理の数字が合わなくなる原因になります。

これを防ぐための「再振替仕訳(さいふりかえしわけ)」

この重複を防ぐために、翌期の最初の日(1月1日)に、年末に入れた仕訳を【取り消す処理】を入れておく必要があります。これを「再振替仕訳(逆仕訳)」と呼びます。

手順2:1月1日付で逆の仕訳を入れる

振替伝票で、以下の入力をします。

  • 日付:1月1日
  • 借方(左側):未払費用 15,000円
  • 貸方(右側):水道光熱費 15,000円
  • 摘要:前期未払費用の再振替

【解説】 これを入れることで、新年度の「水道光熱費」はマイナス15,000円からのスタートになります。 その後、1月27日に銀行から引き落とされた際に「水道光熱費 15,000円」が計上されると、 「マイナス15,000円 + プラス15,000円 = ゼロ」 となり、新年度の経費には影響しなくなります。これで、正しく「昨年の経費」として処理が完結するのです。

クラウド会計の便利機能を使おう

freeeやマネーフォワードなどの最新のソフトには、決算整理仕訳を入力する際に「翌年度首に逆仕訳を自動作成する」というチェックボックスがついていることがあります。 これにチェックを入れて保存すれば、手順2を人間がやる必要はありません。ソフトが勝手に1月1日の逆仕訳を作ってくれます。ミスを防ぐためにも、この機能は積極的に活用してください。

最後にチェックすべき「隠れ未払金」リスト

電気代や通信費以外にも、見落としがちな未払費用はまだあります。決算申告ボタンを押す前に、以下のリストをざっと確認してみてください。

  • 税理士への報酬 決算料などは後払いになることが多いですが、12月中に決算対策の相談などをしていれば、その期間に対応する顧問料などは未払計上できる場合があります。
  • Webサービスのサブスクリプション Adobe、Dropbox、Zoomなどの利用料。クレジットカード払いにしている場合、12月利用分が未計上になっていませんか? 明細メールを確認しましょう。
  • アフィリエイト報酬や外注費 あなたが支払う側の場合です。12月末締めでライターさんや外注さんに支払う報酬が確定しているなら、支払いが翌月でも全額「外注費」として計上できます。
  • 借入金の利息 銀行から融資を受けている場合、次回返済日までの「経過利息」を経費にできる場合がありますが、計算が複雑なため、金額が少額であれば無理に入れる必要はありません。

経費の「締め」こそが経営者の通知表

2回にわたり、未払費用の計上について解説してきました。 「まだ払っていないお金を経費にするなんて、なんだかズルをしているようだ」と感じる方もいるかもしれません。 しかし、これはズルでも何でもなく、【企業の正しい成績表を作るための義務】です。

12月の売上を上げるために使った電気代や、従業員の頑張り(給与)は、12月の経費として引かなければ、正しい「12月の利益」は計算できません。 クラウド会計ソフトは、日々の現金の動きを追うのは得意ですが、こうした「期間のズレ」を調整するのは苦手です。そこを補うのが、経営者であるあなたの知識と、決算時のひと手間です。

この処理をマスターすれば、キャッシュフロー(現金)を一切傷めずに、合法的に税金をコントロールする術を手に入れたことになります。 まずは、手元にある「1月に届いた請求書」の束をひっくり返し、12月分の日付が入っているものを探す宝探しから始めてみませんか?

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