スタッフが増えたら会計ソフトはどう選ぶ?ワークフロー・承認機能の比較と導入ガイド

スタッフが増加した企業における、クラウド会計ソフトのワークフローと承認機能の導入プロセスを図解したイラスト。「スタッフが増えたら会計ソフトはどう選ぶ?ワークフロー・承認機能の比較と導入ガイド」というタイトル文字と、従業員による申請、上司による承認、経理担当者による処理の流れが描かれている。
目次

「社長、この領収書の承認お願いします」の列をなくす方法

従業員が数名のうちは、経理もシンプルでした。全員の動きを把握できているため、「誰が、何のために使ったお金か」は聞かなくても分かっていたはずです。

しかし、スタッフが10名、20名と増えてくると、景色は一変します。 月末になるとデスクに積まれる領収書の山、チャットで飛んでくる「備品買っていいですか?」という質問、そして「これ、誰が許可した経費だっけ?」という不明瞭な出金……。

経営者であるあなたが、すべての支払いを目視でチェックし、振込作業まで行っているとしたら、それは会社の成長を阻害する大きなボトルネックになっています。

組織が大きくなった時に必要なのは、高機能な計算機ではありません。「誰が申請し、誰が承認し、いつ支払うか」という情報の流れ(ワークフロー)を整理できるシステムです。

本記事では、スタッフが増えても経理がパンクしないための「承認機能付きクラウド会計ソフト」の選び方と、カオスな経費精算をスマートなデジタル承認へと変えるための導入ステップを解説します。これを読めば、あなたは「承認印を押すだけの作業」から解放され、本来の経営業務に集中できるようになるはずです。

なぜ「人数が増える」と今までの会計ソフトでは回らなくなるのか

「うちはまだ数人だから、Excelや安価なプランで十分」 そう思っている経営者は多いですが、実は従業員5〜10名の壁を超えたあたりから、会計ソフトに求められる役割が劇的に変わります。

これまでは「帳簿をつける(記録する)」ことが目的でした。しかし、人が増えると**「統制する(コントロールする)」**ことが目的になります。このシフトチェンジに気づかずに古い運用を続けていると、以下のようなリスクが発生します。

1. 「使い込み」や「不正」のリスクが高まる

悲しいことですが、管理の目が届かなくなると、不正のリスクは必ず発生します。架空の交通費を請求したり、私的な買い物を会社のカードで行ったり。 承認フロー(誰かのチェック)を通さないシステムを使っていると、こうした不正の温床になりやすく、発覚したときには手遅れというケースも少なくありません。

2. 社長の時給に見合わない「確認作業」が増える

「この1,000円の文房具、本当に必要?」という確認のために、社長が数分を使う。これが月に100回あれば、数時間のロスです。 本来なら、部長やリーダーに権限を委譲し、社長は「3万円以上の決裁のみ見る」といったルールにすべきです。しかし、権限設定ができないソフトでは、「全員に全権限を渡す」か「社長が全部やる」かの二択しかなく、業務が詰まってしまいます。

3. 情報漏洩のリスク(給与や資金繰りが見えてしまう)

経理担当者を雇った際、権限管理ができないソフトだと、見せたくない「役員報酬」や「銀行残高」まで全て見えてしまいます。 「入力はしてほしいけど、会社の全財産は見せたくない」。このジレンマを解消するには、細かな権限設定機能が必須なのです。

「ワークフロー機能」とは?デジタルのハンコが生む3つのメリット

ここで言う「ワークフロー機能」とは、簡単に言えば**「デジタルの稟議書(りんぎしょ)」**のことです。

これまでは、紙の申請書にレシートを貼り、ハンコを押して回していました。 クラウド会計ソフトにおけるワークフローは、スマホやPC上で「申請ボタン」を押すと、上司に通知が飛び、上司が「承認ボタン」を押すと、それが自動的に経理データ(仕訳)に変わる仕組みを指します。

導入のメリットは圧倒的です。

  • メリット1:入力の手間が消える 承認されたデータがそのまま会計ソフトに連携されるため、経理担当者が改めて「消耗品費 1,000円…」と入力し直す必要がありません。
  • メリット2:場所を選ばない 出張中の新幹線の中からでも、スマホで部下の経費申請を承認できます。「社長が帰ってくるまで処理が止まる」ということがなくなります。
  • メリット3:証拠がすべて残る(内部統制) 「いつ、誰が申請し、いつ、誰が承認したか」というログが改ざん不可能な状態で残ります。これは、将来的に上場を目指す場合や、税務調査の際に非常に強力な信頼性の担保となります。

成長企業向け3大クラウド会計ソフトの「承認機能」徹底比較

では、具体的にどのソフトを選べばよいのでしょうか。 個人事業主向けのプランでは、この「承認機能」や「ワークフロー」が省かれていることが多いため、法人向けの上位プランや、専用オプションを検討する必要があります。

代表的な3社の特徴を、組織管理の視点から比較します。

1. freee会計(組織管理のオールインワン)

「経理」と「ワークフロー」を完全に一体化させたいなら、freeeが最も強力な選択肢です。

  • 特徴: freeeはERP(統合基幹業務システム)の思想で作られており、「経費精算」や「支払依頼」の機能が会計ソフト本体に深く組み込まれています。 例えば、従業員がスマホで領収書を撮って申請し、上司が承認すれば、その瞬間に会計帳簿への記帳が完了し、さらにネットバンキングの振込データまで自動作成されます。
  • 権限設定の細かさ: 非常に細かく設定できます。「申請はできるけど承認はできない」「A部門のデータしか見られない」といった設定が可能です。
  • おすすめのフェーズ: 従業員20名以上を目指す急成長ベンチャーや、IPO(株式上場)を視野に入れている企業。内部統制の機能が充実しています。

2. マネーフォワード クラウド会計(組み合わせの自由度)

「マネーフォワード クラウド経費」「クラウド債務支払」といった個別の専用ソフトを組み合わせて使うスタイルです。

  • 特徴: 会計ソフト本体とは別に、ワークフロー専用のモジュール(アプリ)が存在します。それぞれが独立しているため、使い勝手が専門的で優れています。 例えば、「経費精算だけはこのアプリを使いたい」「給与計算だけは他社を使いたい」といった場合でも、連携(API連携)がスムーズです。
  • 権限設定の細かさ: シリーズ全体でのID管理(マネーフォワード Admin)が強化されており、入退社時のアカウント管理が楽です。
  • おすすめのフェーズ: 既存の業務フローをあまり変えたくない企業や、必要な機能だけを部分的に導入したい企業。コストパフォーマンスを調整しやすいのが魅力です。

3. 弥生会計 オンライン(シンプル・堅実)

小規模法人におけるシェアは圧倒的ですが、複雑なワークフローには工夫が必要です。

  • 特徴: 「弥生会計 オンライン」単体では、高度な多段階承認ワークフロー機能は限定的です。基本的には、少人数の担当者が入力し、税理士がチェックするという運用に向いています。 ただし、「Misoca(請求書作成)」などの関連サービスと連携することで、請求業務の承認フローを作ることは可能です。
  • 権限設定の細かさ: freeeやマネーフォワードに比べるとシンプルです。「管理者」か「担当者」か、といった大枠での設定になります。
  • おすすめのフェーズ: 従業員がまだ5名〜10名程度で、複雑な承認ルート(課長→部長→社長など)が必要ない段階の企業。

失敗しない「プラン選び」の落とし穴

ここで注意したいのが、**「安いプランを契約して失敗する」**パターンです。

多くのクラウド会計ソフトには、「ミニマム(小規模)」「ベーシック(中小)」「プロフェッショナル(大規模)」のようなプラン分けがあります。 そして、今回重要となる**「経費精算機能」や「ワークフロー機能」、「3名以上のユーザー追加」は、上位プランでないと使えない(または別料金)」**というケースがほとんどです。

  • ケチると逆効果: 月額数千円を節約するために下位プランを選んだ結果、「結局、紙の申請書を使っている」「社長が入力代行している」のでは本末転倒です。
  • 見るべきポイント: 料金表を見る際は、単なる月額だけでなく、**「メンバー追加料金(1人あたりいくらか)」「承認機能の有無」**を必ずチェックしてください。 従業員全員にアカウントを発行する場合、従量課金でコストが変わるため、シミュレーションが必要です。

社長の仕事を減らす「承認ルート」の作り方

高機能なワークフロー機能を導入しても、設定が間違っていれば、かえって手間が増えてしまいます。 よくある失敗が、**「何でもかんでも社長の承認が必要な設定にしてしまう」**ことです。これでは、紙のハンコがスマホのボタンに変わっただけで、ボトルネックは解消されません。

現場を止めず、かつ統制を効かせるための、賢いルート設計のパターンを紹介します。

パターン1:金額で分岐させる(決裁権限の委譲)

最も効果的なのが、「金額」による自動分岐です。

  • 1万円未満: 課長の承認だけでOK(社長への通知は不要)
  • 1万円以上〜10万円未満: 部長の承認が必要
  • 10万円以上: 社長の最終承認が必要

このように設定することで、社長のスマホには「本当に重要な高額決済」の通知だけが届くようになります。100円のボールペン購入の承認通知で、社長の思考を中断させてはいけません。 クラウド会計ソフトの設定画面では、「AND条件(かつ)」や「OR条件(または)」を使って、こうした分岐をノーコード(プログラミング不要)で作ることができます。

パターン2:費目で分岐させる(専門部署へのチェック)

内容によって、承認者を自動で切り替える設定です。

  • 「交際費」の申請: 営業部長へ
  • 「PC・備品」の申請: システム管理者へ
  • 「採用費」の申請: 人事担当者へ

これにより、専門知識のある人間が適切にチェックを行えます。例えば、スペックの低いPCを誤って購入しようとした場合、システム管理者が承認段階で「これでは業務に支障が出ます」と差し戻すことができます。これは経理的なチェックだけでなく、業務品質の担保にも繋がります。

絶対にやってはいけない「権限設定」と、守るべき3つの鉄則

スタッフをクラウド会計ソフトに招待する際、「面倒だから」といって全員に強い権限を与えてしまうのは自殺行為です。 給与情報、銀行口座の残高、取引先の原価情報……会社には「見せてはいけない情報」が存在します。

トラブルを防ぐために、必ず設定すべき**3つの権限ロール(役割)**を定義しましょう。

1. 一般従業員ロール(申請のみ・閲覧制限あり)

営業マンや現場スタッフ向けの設定です。

  • できること: 自分の経費申請、自分の申請履歴の確認。
  • できないこと: 他人のデータの閲覧、決算書の閲覧、銀行口座の残高確認。
  • ポイント: 特にfreeeやマネーフォワードでは、初期設定で「取引の閲覧」範囲を制限しないと、会社の全取引が見えてしまうことがあります。「自分に関係するデータのみ」に絞る設定を忘れないでください。

2. 承認者ロール(部門長・リーダー)

部下のマネジメントを行う中間管理職向けの設定です。

  • できること: 部下の申請の承認・差戻し。部門ごとの予算実績の確認。
  • できないこと: 全社の決算修正、銀行振込の実行、マスタ設定の変更。
  • ポイント: 「承認」はできても、勝手に「仕訳の修正」や「振込」まではできないようにしておくのが、内部統制の基本です(職務分掌と言います)。

3. 管理者ロール(経理担当・CFO)

会計ソフトの守り神となる、実務担当者向けの設定です。

  • できること: 全機能の利用、口座連携の設定、ユーザーの追加・削除。
  • ポイント: この権限を持つ人は、社長を含めて社内に2〜3名までに絞りましょう。多すぎると、誤操作で過去の決算データを壊してしまうリスクが高まります。

現場が反発しない「デジタル導入」の進め方

「今日から紙の精算書は廃止です!全員アプリを使ってください!」 社長がそう号令をかけても、現場はすぐには動きません。「使い方がわからない」「スマホにアプリを入れたくない」といった反発が必ず起きます。 スムーズに移行するための3ステップを踏みましょう。

STEP 1:ITに強い「パイロットチーム」で小さく始める

いきなり全社員でスタートするのは危険です。まずは、若手社員やITリテラシーの高い数名のチームだけで、1ヶ月間テスト運用を行います。 「このボタンが分かりにくい」「この項目の入力は必須にしないほうがいい」といった現場の不満を洗い出し、設定を微調整します。この段階でマニュアル(簡易的なスクショでOK)を作っておくと、後の展開が楽になります。

STEP 2:説明会を開き「メリット」を強調する

全社導入の際は、必ず説明会を行います。ここで重要なのは、「会社が楽になる」ではなく**「従業員のみなさんが楽になる」**ことを強調することです。

  • 「領収書をのりで貼る作業がなくなります」
  • 「外出先からスキマ時間で申請できます」
  • 「立替金が振り込まれるまでのスピードが早くなります」

このメリットが伝われば、従業員は喜んで協力してくれます。

STEP 3:完全移行の「Xデー」を決める

いつまでも「紙」と「アプリ」を併用してはいけません。経理担当者が二重管理になり、一番苦労するからです。 「来月の1日以降、紙で提出された経費は精算しません」と、明確なデッドライン(Xデー)を設けましょう。強いリーダーシップで退路を断つことが、システム定着の近道です。

経理のアウトソースも視野に入れる

ここまでの仕組み(ワークフローと権限設定)が整えば、実は**「経理担当者を社内に置かない」**という選択肢も見えてきます。

領収書のチェックや承認までは社内の人間が行いますが、その後の「勘定科目の修正」や「決算書の作成」といった専門的な作業は、クラウド会計上で繋がった外部の税理士や記帳代行会社に任せることが容易になるからです。

  • 社内の役割: 正しい情報を入力・承認する(ビジネスの流れを作る)
  • 外部の役割: 会計的な正しさを担保する(専門知識を提供する)

クラウド会計は、この分業をシームレスに実現します。採用難の時代、優秀な経理担当者を雇うのは困難です。システムで型を作り、専門業務は外に出す。これが、これからの成長企業がとるべきバックオフィス戦略のスタンダードになっていくでしょう。

結論:組織の「血管」を詰まらせないために

企業において「お金の流れ」は血液であり、それを運ぶ「ワークフロー」は血管です。 スタッフが増えているのに、いつまでも社長のアナログな承認に頼っている状態は、いわば動脈硬化を起こしているのと同じです。いつか必ず詰まり、会社の成長は止まってしまいます。

クラウド会計ソフトの承認機能を導入することは、単なる事務作業の効率化ではありません。 それは、社長が現場のマイクロマネジメントから卒業し、次のステージへ進むための儀式です。

「誰が申請しても、正しいルートを通って、正しく処理される」 この安心感を手に入れたとき、あなたの会社は「個人商店」から、本当の意味での「組織」へと進化するのです。 まずは、現在使っているソフトの上位プランを確認するか、ワークフロー機能に強いソフトの無料体験から始めてみてください。組織の景色が、驚くほどクリアになるはずです。

目次