クラウド会計の貸倒損失・貸倒引当金ガイド|未回収金の要件と仕訳を解説

「クラウド会計の貸倒損失・貸倒引当金ガイド」というタイトル文字と、クラウド会計画面が表示されたノートPC、バツ印がついたお金の書類(貸倒れ)、盾とコイン(引当金)のイラストが描かれたアイキャッチ画像。
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売掛金が入金されないのに税金だけ取られる?未回収リスクの正体

事業を続けていると、残念ながら避けて通れないのが【代金の未回収】というトラブルです。「取引先と連絡が取れなくなった」「相手が倒産してしまった」といった理由で、本来もらえるはずのお金が入ってこない事態は、誰にでも起こり得ます。

ここで多くのクラウド会計ユーザーを悩ませるのが、「お金をもらっていないのに、税金は払わなければならない」という厳しい現実です。クラウド会計ソフトでは通常、請求書を発行した時点(発生主義)で「売上」が計上されます。そのため、後日実際に入金がなくても、帳簿上は「利益が出ている」ことになり、そのままでは所得税や法人税、消費税が課税されてしまうのです。

この「踏んだり蹴ったり」の状態を解消するために用意されている税務上の救済措置が、【貸倒損失(かしだおれそんしつ)】と【貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)】です。これらを正しく理解し、クラウド会計ソフトで適切に処理することで、架空の利益に対する課税を防ぎ、無駄なキャッシュアウトを防ぐことができます。まずは、すでに回収不能となってしまった債権を処理する「貸倒損失」の厳しいルールから見ていきましょう。

「諦めたから経費にする」は通用しない!税務署が目を光らせる理由

「もう半年も連絡がないし、面倒だから諦めて経費(損失)にしてしまおう」と考えるのは、税務上非常に危険です。なぜなら、貸倒損失は「利益を減らして税金を安くする効果」が非常に大きいため、税務調査で最も厳しくチェックされる項目の一つだからです。

もし、経営者が自由に「これは回収できない」と判断して経費に計上できてしまえば、利益操作(脱税)が簡単にできてしまいます。そのため、税法では「どのような状態になれば損失として認めるか」という基準をガチガチに固めています。

単に「返してくれない」という主観的な理由だけでは認められません。客観的な事実に基づき、以下の3つのパターンのいずれかに該当したときだけ、クラウド会計上で経費として処理することが許されます。

パターン1:法律的に債権が消滅した場合(法律上の貸倒れ)

もっとも明確なのが、法的な手続きによって「もう請求権がなくなりました」と確定したケースです。これを【法律上の貸倒れ】と呼びます。この場合、その事実が発生した日の属する年度で、全額を経費(貸倒損失)に計上【しなければなりません】(※選択ではなく強制です)。

具体的には以下のようなケースが該当します。

  • 会社更生法や民事再生法の認可決定 取引先が裁判所に再生を申し立て、更生計画や再生計画の決定により、「債権の〇〇%を切り捨てる」という通知が来た場合です。切り捨てられた部分は、法的に消滅したことになるため、即座に損失処理します。
  • 特別清算などによる債権放棄 法的な清算手続きの中で、債権者が集まって協議し、債権放棄が決まった場合などがこれにあたります。
  • 書面による債務免除 取引先が債務超過の状態が相当期間続いており、返済能力がないことが明らかな場合に、こちらから「もう返さなくていいですよ」という通知(債務免除)を【内容証明郵便】などで送った場合です。単に口頭で伝えただけでは証拠が残らないため、必ず書面で行う必要があります。

このパターンは、「法的な裏付け」があるため、税務署に対しても非常に説明しやすいのが特徴です。

パターン2:事実上回収が不可能になった場合(事実上の貸倒れ)

相手が法的な倒産手続きをとっていなくても、実質的に「全額回収できる見込みがない」という状態の場合があります。これを【事実上の貸倒れ】と呼びます。

ただし、これは「全額」が回収不能であることが条件です。「半分くらいは返ってくるかも」という状態では認められません。また、担保物(不動産など)がある場合は、それを処分してもなお回収できない部分に限られます。

  • 資産状況や支払能力からみて全額回収不能と認められる場合 相手の工場が閉鎖され、夜逃げ状態で連絡がつかず、財産も何もないことが明らかな場合などが該当します。

このパターンの注意点は、パターン1と違って「損失計上するかどうかを選べる」という点と、「担保を処分した後でなければならない」という点です。クラウド会計上で処理する際は、「いつ、どのような根拠で全額回収不能と判断したか」をメモや調査報告書として残しておくことが重要です。

パターン3:取引停止から一定期間が経過した場合(形式上の貸倒れ)

中小企業や個人事業主の実務で最もよく使われるのがこの【形式上の貸倒れ】です。相手が倒産したわけでもなく、資産状況も詳しくは分からないけれど、少額の売掛金がずっと残っている…というケースを救済するための規定です。

以下のいずれかの条件を満たせば、相手への「債務免除の通知」がなくても、貸倒損失として処理(備忘価額1円を残して経費化)することが認められています。

  • 取引停止後1年以上経過した場合 継続的な取引を行っていた相手と、最後の取引から1年以上経過しており、かつその間、回収の努力をしたけれど入金がない場合です。ポイントは「継続的な取引」であることなので、たまたま1回だけ取引した相手(スポット取引)には適用できません。
  • 取立費用が債権金額を上回る場合 例えば、売掛金が1万円しかないのに、回収するために遠方の相手先まで交通費をかけて行ったり、弁護士に依頼したりすると、かえって赤字になってしまうケースです。この場合も、物理的に回収が割に合わないため、貸倒れ処理が認められます。

このパターン3を使う場合は、全額を経費にするのではなく、「備忘価額(びぼうかがく)」として【1円】だけ帳簿に残すルールがあります。「債権自体は消滅していないけれど、会計上は損失にする」という意味合いがあるためです。

「まだ損していない」のに経費にできる?貸倒引当金の仕組み

通常、経費というのは「お金を支払った時」や「サービスの提供を受けた時」に計上するものです。しかし、貸倒引当金は例外的に、「将来発生するかもしれない損失を、今のうちに見積もって経費に入れること」が認められています。

これは、「今年売り上げた金額のうち、いくつかは来年以降に回収不能になるだろうから、その損失は今年の売上に対応させるべきだ」という会計上の考え方(費用収益対応の原則)に基づいています。

ただし、誰でも無制限に認められるわけではありません。個人事業主と法人、さらには申告の種類によってルールが大きく異なります。

個人事業主は「青色申告」が必須条件

個人事業主が貸倒引当金を経費として計上するには、原則として【青色申告】を行っていることが条件です。白色申告の場合は、実際に貸倒れが発生した時(パート1の貸倒損失)しか経費にできません。

青色申告を行っている個人事業主には、大きく分けて2種類の計算方法が認められています。

  1. 一括評価(いっかつひょうか) 年末に残っている売掛金や貸付金の合計額に対し、【5.5%】(金融業の場合は3.3%)を上限として、自動的に経費に繰り入れる方法です。相手先の状況に関係なく、「全体の残高×5.5%」を経費にできるため、計算が簡単で節税効果も高いのが特徴です。多くの個人事業主はこの方法を利用します。
  2. 個別評価(こべつひょうか) 倒産手続き中の相手など、個別に回収リスクが高い債権について、それぞれの状況に応じて見積もった額を経費にする方法です。計算は複雑ですが、5.5%の上限を超えて大きく経費計上できる可能性があります。

法人の場合は、資本金の額などによって「一括評価」が使えないケース(中小法人以外の法人など)がありますが、多くの中小企業では過去の実績率などを用いた繰入が認められています。

クラウド会計ソフトでの「貸倒損失」の入力方法

では、実際にクラウド会計ソフトでどのように入力すればよいのか、具体的な仕訳を見ていきましょう。ここでは、売掛金11万円(税込)が回収不能になったケースを想定します。

すでに売上として計上していた債権が消えた場合

クラウド会計では、請求書を出した時点で「(借方)売掛金 / (貸方)売上高」という仕訳が自動で作られています。この「売掛金」を消し込み、代わりに「損失」を立てる処理を行います。

  • 勘定科目:【貸倒損失】を使います。
  • 仕訳例: (借方)貸倒損失 110,000円 / (貸方)売掛金 110,000円

もし、パート1の「パターン3(形式上の貸倒れ)」を使って、備忘価額1円を残す場合は以下のようになります。

  • 仕訳例(備忘価額を残す場合): (借方)貸倒損失 109,999円 / (貸方)売掛金 109,999円 ※売掛金残高として1円が帳簿に残ります。

クラウド会計ソフトの「振替伝票」や「手動仕訳」の画面から、この仕訳を入力してください。摘要欄には「〇〇社 債権放棄通知により貸倒処理」など、理由を具体的に記載しておくことが、後日の税務調査対策として重要です。

クラウド会計ソフトでの「貸倒引当金」の入力方法

貸倒引当金は、決算(12月31日)の時だけに行う特別な処理です。日々の取引では入力しません。

ステップ1:今年の繰入額を計算する

まず、決算時点での「売掛金」「受取手形」「貸付金」などの債権残高を集計します。クラウド会計の「試算表」や「貸借対照表」を見ればすぐに分かります。 その合計額に、繰入率(個人の一括評価なら5.5%)を掛けます。

  • 例:売掛金残高が200万円の場合 2,000,000円 × 5.5% = 110,000円 これが、今年経費にできる「貸倒引当金繰入額」です。

ステップ2:仕訳を入力する(洗替法がおすすめ)

貸倒引当金の処理には「差額補充法」と「洗替法(あらいがえほう)」がありますが、クラウド会計では管理しやすい【洗替法】が一般的です。これは、「去年の引当金を一旦全部取り消して(利益に戻して)、今年の分を新しく計上し直す(経費にする)」という方法です。

  1. 去年の引当金を戻す(戻入) (借方)貸倒引当金 〇〇円 / (貸方)貸倒引当金戻入 〇〇円 ※前年の決算書に載っている貸倒引当金の金額を、全額「戻入(収益)」として計上します。
  2. 今年の引当金を計上する(繰入) (借方)貸倒引当金繰入 110,000円 / (貸方)貸倒引当金 110,000円 ※ステップ1で計算した金額を「繰入(経費)」として計上します。

クラウド会計ソフトによっては、決算ウィザードの質問に答えるだけで、この計算と仕訳を自動で行ってくれる機能があります。その場合は手動入力不要ですので、ソフトのヘルプを確認してみてください。

忘れてはいけない「消費税」の調整ルール

貸倒損失を計上する際、もう一つ重要なのが【消費税】の扱いです。

当初、売上を計上した時に、売上に含まれる消費税分も「預かった消費税」として納税額の計算に含まれています。しかし、代金が回収できなかったということは、その消費税も相手から預かっていないことになります。

もらってもいない消費税を税務署に払うのは理不尽です。そこで、貸倒損失が発生した場合、その金額に含まれる消費税額を、納税額から【控除】(マイナス)することが認められています。

クラウド会計ソフトで「貸倒損失」の科目を入力する際、税区分の設定に注意してください。

  • 税区分:通常は「課対仕入(課税対応仕入)」ではなく、【不課税】や【対象外】になっていることが多いですが、消費税の控除を受けるためには、「売上に係る対価の返還等」や、ソフト独自の「貸倒」用の税区分を選択する必要があります。

ソフトによって名称が異なります(例:freeeなら「課税売上返還」、マネーフォワードなら「課税売上のマイナス」など)。ここを間違えて「対象外」にしてしまうと、消費税が戻ってこない(安くならない)ことになりますので、必ずマニュアルを確認して正しい税区分を選んでください。

「こんな時はどうする?」よくある疑問とトラブル対応

貸倒れの判定は、教科書通りにいかないことが多々あります。初心者が悩みやすいケースをQ&A形式で見ていきましょう。

Q1. 相手と連絡がつかないけれど、倒産したかどうかも分からない場合は?

「電話がつながらない」「メールが返ってこない」という理由だけでは、直ちに【貸倒損失】として処理することはできません。単なる夜逃げや音信不通は「法的な倒産」ではないからです。

この場合、まずはパート1で解説した「事実上の貸倒れ(全額回収不能)」に該当するかどうかを調査する必要があります。相手の事業所に行ってみて、もぬけの殻であることを確認したり、他の債権者からの情報を集めたりして、「資産が何もなく、支払い能力がゼロである」と判断できれば損失計上が可能です。

もし資産状況が不明な場合は、最終取引から1年待って「形式上の貸倒れ(備忘価額1円を残す処理)」を適用するのが最も安全な策となります。焦って処理を急ぐと、後で「まだ回収できる可能性があった」と指摘されるリスクがあります。

Q2. 銀行振込の手数料分など、少額のズレはどう処理する?

請求額が10,800円なのに、入金額が10,000円だった(手数料が引かれていた、あるいは端数が切り捨てられていた)というケースは頻繁に起こります。

厳密には未回収ですが、これらまですべて「貸倒損失」として処理する必要はありません。数百円程度の少額な差額であれば、【支払手数料】や【売上値引】として処理するのが一般的です。

  • 振込手数料の場合:相手が負担すべき手数料をこちらが負担したと考え、【支払手数料】で処理します。
  • 端数処理の場合:値引きをしてあげたと捉え、【売上値引】で処理します。

これらは貸倒れの厳格な要件を満たす必要はなく、通常の経費処理として認められます。

Q3. 諦めて損失処理した後に、まさかの入金があったら?

貸倒損失として処理し、税務署への申告も済ませた数年後に、相手から「遅れて申し訳ない」と入金があるケースも稀にあります。

この場合、過去の経費を取り消す(修正申告をする)必要はありません。入金があった年度の「新しい利益(収入)」として計上します。

  • 勘定科目:【償却債権取立益(しょうきゃくさいけんとりたてえき)】または【雑収入】を使います。
  • 仕訳例: (借方)普通預金 〇〇円 / (貸方)償却債権取立益 〇〇円

「儲かった」ことには変わりないので、その年の税金計算の対象になります。

税務調査で「否認」されないための証拠保存テクニック

冒頭でも触れましたが、貸倒損失は「税金を減らす効果」が大きいため、税務調査官は「本当に回収不能だったのか?」「回収努力をサボって安易に損失にしていないか?」を徹底的に疑ってかかります。

口頭での説明だけでは、まず通用しません。クラウド会計ソフトのデータだけでなく、以下のような【客観的な証拠資料】を必ずセットで保存しておいてください。

1. 回収努力の履歴を残す(これが一番重要!)

いきなり諦めたわけではなく、「何度も督促したけれど無理だった」というプロセスが重要です。

  • 請求書の控え
  • 督促状・催告書の控え(内容証明郵便であれば最強の証拠になります)
  • 電話やメールの履歴(「〇月〇日 〇〇氏に電話。留守電を残す」といったメモでも立派な証拠になります)
  • 訪問記録(相手先を訪ねた際の日時、対応者、現地の状況などを記したメモや報告書)

2. 公的な証明書を入手する

  • 破産手続開始の通知書
  • 債権届出書
  • 警察への被害届(詐欺などの場合)

3. クラウド会計の「ファイル添付機能」を活用する

紙の書類をバインダーに閉じておくのも良いですが、数年経つとどこに行ったか分からなくなりがちです。

freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトには、仕訳ごとにPDFや画像を添付できる機能(ファイルボックス機能など)があります。「貸倒損失」の仕訳を入力する際に、督促状のPDFや、現地調査のメモの写真をその仕訳に添付しておきましょう。

こうしておけば、税務調査で「この損失の根拠は?」と聞かれた際、その場でスマホやPC画面を見せながら「これだけの回収努力を行いました」と即座に提示でき、調査官の心証も劇的に良くなります。

まとめ:正しい知識とクラウド会計で、不良債権リスクを最小限に

未回収の売上は、事業のキャッシュフローを悪化させるだけでなく、誤った会計処理をすると「架空の利益に課税される」あるいは「税務調査でペナルティを受ける」という二重、三重のダメージをもたらします。

しかし、今回解説した以下のポイントを押さえておけば、恐れることはありません。

  1. 3つの要件(法律上・事実上・形式上)のどれに当てはまるか冷静に判断する。
  2. 貸倒引当金(特に青色申告の一括評価)を活用し、将来のリスクを経費化して節税する。
  3. クラウド会計での入力時は、消費税区分に注意して税金の払いすぎを防ぐ。
  4. 回収努力の証拠をデジタルデータとしてクラウド上に紐付けて保存する。

クラウド会計ソフトは、日々の記帳だけでなく、こうした決算時の複雑な処理や証拠保存においても強力な味方になります。未回収金が発生しないことが一番ですが、万が一の時はこの記事を読み返し、冷静かつ適法に処理を行って、事業の財務体質を守りましょう。

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