クラウド会計の棚卸はこれで完璧!期末在庫の評価方法と節税のポイントを解説

「クラウド会計の棚卸」という文字が表示された、PCや在庫の段ボール、電卓などが並ぶデスクのイラスト。
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クラウド会計導入でも避けて通れない「決算時期の在庫管理」の重要性

個人事業主や中小企業の経営者にとって、一年の締めくくりとなる決算時期は、憂鬱な時期かもしれません。日々の記帳はクラウド会計ソフトの自動連携で楽になったとしても、どうしても人の手と目で確認しなければならない重要な作業が残っています。それが「棚卸(たなおろし)」です。

「売上はしっかり入力されているし、経費もレシートを取り込んでいるから大丈夫」と考えていても、この棚卸が正しく行われていなければ、算出される利益の額は間違ったものになり、結果として正しい納税ができません。最悪の場合、税務調査で指摘を受け、ペナルティを課されるリスクすらあります。

逆に言えば、在庫の評価方法やルールを正しく理解し、適切に処理を行うことで、キャッシュフローを改善したり、無駄な税金を払わずに済む「正しい節税」につなげることが可能です。クラウド会計ソフトの機能をフル活用して、正確かつ効率的に期末在庫を確定させる手順と、その裏にある税金の仕組みについて、専門用語をできるだけ使わずに解説していきます。

なぜ「在庫の金額」が変わると「税金の額」が変わるのか

会計や税務に詳しくない初心者の方が最初に疑問に思うのは、「なぜ売れ残った商品の金額が、今年の税金に関係するのか?」という点ではないでしょうか。「経費は買った時にお金が出ていくのだから、仕入れた時に全額経費になるのでは?」と考えるのは、直感的には自然ですが、税金の計算ルールは異なります。

ここでは、在庫と税金の密接な関係、つまり【売上原価】の仕組みについて見ていきましょう。

利益を正しく計算するための「売上原価」の方程式

事業の利益(儲け)は、「売上」から「経費」を引いて計算します。小売業や卸売業、製造業など、モノを扱うビジネスにおいて、最も大きな経費は「商品を仕入れるためのお金」です。これを会計用語で【売上原価】と呼びます。

ここで重要なルールがあります。税金の計算上、経費(売上原価)として認められるのは、**「その年に売れた商品に対応する仕入代金だけ」**です。

つまり、100個仕入れたとしても、その年に80個しか売れなければ、経費にできるのは80個分の仕入代金だけです。売れ残った20個分は、翌年以降に売れたタイミングで経費になります。これを計算式にすると、以下のようになります。

項目計算式・意味
① 期首商品棚卸高1月1日時点で手元にあった在庫の金額
② 当期商品仕入高1月1日〜12月31日の間に仕入れた金額
③ 期末商品棚卸高12月31日時点で売れ残っている在庫の金額
売上原価(経費)① + ② - ③

この式を見ると、**「③ 期末商品棚卸高(在庫の金額)」**が引き算されていることがわかります。

  • 在庫の金額が増える(引く数字が大きくなる)と、売上原価(経費)は減り、利益は増えます。その結果、税金は高くなります。
  • 在庫の金額が減る(引く数字が小さくなる)と、売上原価(経費)は増え、利益は減ります。その結果、税金は安くなります。

このように、期末の在庫をいくらで評価するかによって、最終的な税金の額がダイレクトに変わってしまうのです。だからこそ、税務署は「在庫の数を数え間違えていないか」「単価を勝手に操作していないか」を厳しくチェックします。

「在庫を減らせば節税になる」という誤解とリスク

上記の計算式を理解すると、「じゃあ、在庫を少なく数えて申告すれば、経費が増えて税金が安くなるのでは?」と考える人がいるかもしれません。しかし、これは【脱税行為】にあたります。

意図的に在庫を隠したり、数を減らして記帳したりすることは、売上の除外と同じくらい悪質な行為とみなされます。クラウド会計ソフトを使っている場合、日々の仕入データや決済データは銀行口座やクレジットカードと紐付いて記録されているため、仕入れの総量はごまかせません。「これだけ仕入れているのに、在庫がこんなに少ないのはおかしい(売上が抜けているか、在庫をごまかしているか)」と、AIによる分析や税務署の調査で容易に推測されてしまいます。

正しい節税とは、事実をねじ曲げることではなく、法律で認められた評価方法や処理ルールを適用して、適正な在庫価額を算出することにあります。

そもそも在庫を「いくら」で評価するのか?選べる2つの評価基準

在庫の金額を決めるには、「数(数量)」と「単価(金額)」の2つが必要です。「数」は実際に倉庫や棚を見て数えればわかりますが、「単価」はどう決めればよいのでしょうか?

例えば、同じ商品を1年の間に「4月は1個1,000円」「8月は1個1,200円」「12月は1個1,100円」で仕入れていたとします。期末に残った1個は、いくらとして計算すべきでしょうか。これには大きく分けて2つの評価基準があります。

原価法:買った時の値段をベースにする基本形

一つ目は、実際に仕入れた金額(取得原価)に基づいて計算する方法です。これを【原価法】と呼びます。原価法の中にもいくつかの計算パターンがありますが、実務でよく使われるのは以下のものです。

  • 最終仕入原価法:期末(決算日)に最も近い時期に仕入れた単価を、すべての在庫の単価として計算する方法。
  • 個別法:一つ一つの商品にタグなどをつけ、個別に仕入値を管理する方法。(宝石や不動産など、単価が高く個別の特定が可能な場合に使われます)
  • 総平均法:1年間の仕入総額を総数量で割り、平均単価を出す方法。(計算には手間がかかりますが、クラウド会計なら自動計算できる場合もあります)

低価法:価値が下がった分を経費にする方法

二つ目は、資産の価値が下がっている場合に、その下がった価値(時価)で評価する方法です。これを【低価法】と呼びます。

具体的には、「仕入れた時の原価」と「決算日時点での時価」を比較して、低いほうの金額を在庫の評価額とします。

  • 例:1,000円で仕入れた商品が、流行遅れで現在は800円の価値しかない場合。
    • 原価法なら:在庫評価額は1,000円
    • 低価法なら:在庫評価額は800円

低価法を採用すると、評価額が200円下がるため、その分だけ当期の利益が減り、節税効果が生まれます。しかし、低価法を採用するには事前に税務署への届出が必要なケースが多く、計算も複雑になるため、中小企業や個人事業主ではハードルが高いのが現実です。

個人事業主・中小企業の「デフォルト設定」を知っておく

特に税務署へ「私はこの方法で評価します」という届出を出していない場合、自動的に適用される評価方法(法定評価方法)が決まっています。

  • 個人事業主の場合:最終仕入原価法
  • 法人の場合:最終仕入原価法(※令和元年以降に設立された法人の場合など、時期により異なる場合がありますが、現在は多くがこれに統一されつつあります)

つまり、特別な手続きをしていない限り、多くのクラウド会計ユーザーは**「一番最後に仕入れた時の単価 × 在庫数」**で計算することになります。まずはこの【最終仕入原価法】が自分のルールであることを認識しておきましょう。

ミスなく効率的に終わらせる「実地棚卸」の段取り

実地棚卸とは、決算日(個人の場合は12月31日、法人の場合は決算月の末日)に、実際に在庫がいくつあるかを数える作業のことです。これが狂ってしまうと、後の計算がすべて台無しになります。スムーズに進めるための3つのステップを見ていきましょう。

準備:整理整頓と「棚卸表」の作成

いきなり数え始めるのはミスの元です。まずは在庫を整理しましょう。同じ種類の商品は一箇所にまとめ、破損して売り物にならないものが混ざっていないかを確認します。

次に、クラウド会計ソフトや販売管理システムから現在の「帳簿上の在庫データ」を出力し、【棚卸表(リスト)】を作成します。これには、以下の項目が必要です。

  • 商品名・コード
  • 保管場所
  • 帳簿上の在庫数(システム上の理論在庫)
  • 実地棚卸数(実際に数えた数を書き込む欄)
  • 差異(ズレを書き込む欄)

このリストをプリントアウトし、バインダーに挟んで当日に臨みましょう。クラウド会計によっては、スマホアプリで在庫を確認できる機能がある場合もありますが、チェック漏れを防ぐには、物理的なリストにペンでチェックを入れる方法が確実でおすすめです。

当日:入出庫を止めて一斉にカウントする

棚卸を行う日(通常は12月31日の業務終了後、あるいは年明けの業務開始前)は、商品の移動を一切ストップさせる必要があります。

数えている最中に「あ、これ売れたから出荷します」「新しい仕入が届きました」となると、その商品を含めていいのか除外すべきなのか混乱し、二重カウントや計上漏れの原因になります。もし営業中に棚卸をする必要がある場合は、「棚卸済み」の付箋を貼るなどして、数え終わったものが動かないように徹底管理してください。

集計:端数やセット商品の扱いに注意

数える際は、単位の間違いに注意してください。「箱」単位で管理しているのか、「個」単位なのか。たとえば、1箱12個入りの商品が3箱と、バラで5個ある場合、「3.5箱」とするのか「41個」とするのか、事前にルールを決めておきます。

会計ソフトへの入力は最小単位(個数)で行うのが一般的ですので、「41個」として集計するほうが後の計算ミスを防げます。

クラウド会計ソフトへの「入力」と「決算整理仕訳」

在庫の数が確定し、単価(最終仕入原価など)が決まったら、いよいよ金額を計算してクラウド会計ソフトに入力します。ここで登場するのが【決算整理仕訳(けっさんせいりしわけ)】という特別な処理です。

日々の記帳と決算処理の違い

普段、商品を仕入れた時は「仕入高(経費)」として入力しているはずです。しかし、パート1で解説した通り、売れ残った分は「経費」から「資産(商品)」に振り替えなければなりません。

クラウド会計ソフトでは、大きく分けて2つの方法でこの処理を行います。

  1. 在庫管理機能・決算ウィザードを使う(初心者向け) 多くのクラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)には、「在庫棚卸」を入力する専用のメニューや、「決算ウィザード」という案内機能があります。 ここに「期末の在庫金額の合計」を入力するだけで、難しい簿記の知識がなくても、自動的に裏側で必要な処理を行ってくれます。基本的にはこの機能を使うことを強く推奨します。
  2. 振替伝票で直接入力する(中級者向け) 簿記の知識がある方は、手動で「振替伝票」を入力することも可能です。昔からある「し・くり・くり・し(仕入・繰越商品・繰越商品・仕入)」という呪文のような仕訳です。
    • 12月31日の仕訳例
      • (借方)仕入 〇〇円 / (貸方)繰越商品 〇〇円 ←【去年の在庫を経費に入れる】
      • (借方)繰越商品 △△円 / (貸方)仕入 △△円 ←【今年の在庫を経費から抜く】
    クラウド会計の自動機能を使う場合は、この仕訳をソフトが勝手に作ってくれていると考えてください。

帳簿と実在庫が合わない場合の処理

実地棚卸をしてみると、「帳簿上は10個あるはずなのに、実際に数えたら9個しかなかった」ということがよく起こります。これを【棚卸減耗(たなおろしげんもう)】と言います。

原因は、入力ミス、万引き、紛失、サンプルの渡し忘れなど様々です。この「消えた1個」はどう処理すべきでしょうか。

税金の計算上、通常の営業活動の範囲内で発生した多少のズレであれば、そのまま「売上原価(経費)」に含めてしまって問題ないケースが大半です。つまり、9個しか在庫がないという事実に基づいて、期末在庫金額を計算します。

ただし、あまりにも大量になくなっている場合や、盗難などの特別な事情がある場合は、「棚卸減耗損」という別の勘定科目を使って、通常の経費とは区別して計上する必要があります。クラウド会計上で数字を合わせる際は、「実地棚卸の結果(実際の数)」を正として入力してください。

在庫管理をクラウド化するメリット

ここまで読んで「棚卸は面倒だ」と感じた方も多いでしょう。しかし、クラウド会計と周辺システムを連携させることで、この作業は劇的に楽になります。

POSレジやECサイトとの連携

実店舗のPOSレジや、Amazon・ShopifyなどのECサイトとクラウド会計を連携させておけば、売上が上がった瞬間に在庫データが減るように管理することも可能です(※利用するアプリやプランによります)。

これにより、常に「理論在庫」が正確に保たれるため、決算時の答え合わせが非常にスムーズになります。「なぜズレたのかわからない」という調査時間を大幅に短縮できるのが、クラウド会計導入の大きなメリットの一つです。

「売れない在庫」は宝の持ち腐れではなく、税金の払い損?

「いつか売れるかもしれないから」と、倉庫の奥に何年も眠らせている在庫はありませんか?実は、この【不良在庫】を持ち続けることは、経営的にマイナスであるだけでなく、税金面でも大きなデメリットがあります。

パート1の計算式を思い出してください。「在庫の金額」が大きいと、経費(売上原価)が減り、利益が増え、その分だけ税金が高くなります。つまり、もう売れる見込みのない商品に価値があるものとして税金を払い続けている状態なのです。

ここで有効な節税対策が、不良在庫の【廃棄(はいき)】や【評価損(ひょうかそん)】の計上です。

物理的に捨てる「廃棄損」

最も確実な方法は、売れない商品を物理的に処分することです。商品を捨ててしまえば、手元の在庫数量は「0」になります。

期末の在庫が減れば、その分だけ売上原価(経費)が増えます。これを会計上【商品廃棄損】と呼びます。ゴミとして処分費用がかかったとしても、その費用も経費になりますし、在庫としての評価額分も経費化できるため、ダブルで利益を圧縮し、節税につながります。

安く売る「見切り販売」

完全に捨てなくても、セールなどで赤字覚悟の安値で売り切ってしまう方法もあります。

例えば、仕入値1,000円の商品を100円で売ったとします。900円の赤字が出ますが、この900円分は損失として計上できます。在庫として1,000円の評価額を残したまま税金を払うより、100円でも現金化し、損失を確定させて税金を安くするほうが、キャッシュフロー(資金繰り)は良くなります。

「捨てたふり」は脱税!税務署を納得させる証拠の残し方

在庫の処分は強力な節税手段であるがゆえに、税務署も厳しくチェックします。「本当は捨てていないのに、帳簿上だけ捨てたことにして利益を減らしていないか?」と疑われるのです。

もし税務調査が入った際、「去年、大量に捨てました」と口で説明するだけでは認められません。最悪の場合、経費を否認され、追徴課税を支払うことになります。そうならないために、必ず【客観的な証拠(エビデンス)】を残してください。

証拠の種類具体的な内容
廃棄業者の証明書産廃業者などに引き取ってもらった際の「マニフェスト」や「請求書」「領収書」。品名や数量が明記されていることが重要です。
写真記録自分で処分場へ持ち込んだ場合などは、廃棄する商品の日付入り写真を撮影し、保存しておきます。
社内稟議書法人の場合、「なぜ廃棄するのか」「何をいくつ廃棄するのか」を決定した社内文書(稟議書)を作成し、決裁印を残します。
廃棄証明書自分でゴミ処理場に持ち込んだ場合、自治体や処理場が発行する証明書をもらっておきましょう。

クラウド会計ソフトには、領収書や書類をスキャンしてデータ保存する機能(電子帳簿保存法対応機能)がついていることが多いです。廃棄に関する書類も、仕訳データと一緒にクラウド上に保存しておくと安心です。

12月31日の「期ズレ」に要注意

最後に、決算日前後の取引でよくある間違い、【期ズレ(きずれ)】について解説します。

例えば、12月30日に商品を注文し、12月31日に発送されたけれど、手元に届いたのは年明けの1月4日だった場合、この商品は今年の在庫に含めるべきでしょうか?

答えは、**「自社が採用している基準による」**です。

  • 出荷基準:相手が発送した時点で自分のものになる考え方。この場合、1月4日着でも「今年の在庫」に含める必要があります。
  • 入荷基準(検収基準):手元に届いて確認した時点で自分のものになる考え方。この場合、「来年の仕入」になります。

一般的には「入荷基準」を採用している事業者が多いですが、重要なのは【毎年同じ基準を継続すること】です。利益調整のために「今年は出荷基準、来年は入荷基準」とコロコロ変えることは認められません。

クラウド会計ソフトは日付に基づいて自動集計しますが、このような年末年始をまたぐ配送中の在庫(未着品)については、手動で確認して調整が必要になることがあります。

まとめ:クラウド会計と正しい知識で、賢く決算を乗り切ろう

在庫の棚卸は、単に「数を数える作業」ではなく、1年間の利益を確定させ、正しい納税額を導き出すための最重要プロセスです。

  1. 在庫が増えれば利益が増え、税金が増えるという仕組みを理解する。
  2. 最終仕入原価法など、自分の評価ルールを把握する。
  3. 実地棚卸を正確に行い、クラウド会計の決算機能を活用して入力する。
  4. 不良在庫は適切に処分し、証拠を残して節税につなげる。

クラウド会計ソフトは計算や集計を劇的に楽にしてくれますが、最終的に「その在庫が本当に価値があるのか」「数は合っているか」を判断するのは経営者自身の目です。

正しい知識を持って棚卸を行えば、税金の不安を解消できるだけでなく、無駄な在庫を減らして筋肉質な経営体質を作ることができます。今年の決算では、ぜひ在庫管理と向き合ってみてください。

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