経営者が直面する「経理と節税」の課題
個人事業主や中小企業の経営者にとって、経理業務は欠かせないものです。しかし「本業に集中したいのに、経理や書類整理に時間を奪われる」と悩む人も多いのではないでしょうか。
さらに、毎年のように変わる税制や会計ルールへの対応は、経理初心者にとって大きな負担になります。
その中で近年注目を集めているのが、クラウド会計ソフトと電子帳簿保存法の活用です。
クラウド会計と電子帳簿保存法の組み合わせが注目される理由
クラウド会計ソフトは、銀行口座やクレジットカードと自動連携し、仕訳を自動化する機能を持っています。レシートや請求書もスマホで撮影すればすぐにデータ化され、経費の入力漏れを防げます。
一方、電子帳簿保存法は、従来紙で保存しなければならなかった領収書や請求書を電子データで保存することを認める法律です。これにより、紙の書類を大量に保管する手間やスペースが不要になりました。
この二つを組み合わせることで、
- 経理業務の効率化
- ペーパーレス化によるコスト削減
- 税務署から認められる「正しい経費処理」
を実現しながら、節税につなげることができます。
正しく理解しないと損をするリスク
ただし、「クラウド会計を導入すれば自動で節税できる」と考えるのは誤解です。
電子帳簿保存法にも細かい要件があり、ルールを守らずに運用すると、税務調査で経費が否認されるリスクがあります。
例えば、
- 領収書データのタイムスタンプを押していない
- 修正や削除履歴を残していない
- 保存方法が税務署の求める基準を満たしていない
こうしたケースでは「電子保存」として認められず、結果的に紙での保存が必要になるだけでなく、税務リスクが高まります。
節税効果を得るには「活用方法」がカギ
つまり、クラウド会計と電子帳簿保存法を組み合わせること自体に価値があるのではなく、正しいルールを守りながら効率的に運用することが重要です。
経理の自動化で本業に集中できるだけでなく、確実に認められる経費を増やすことこそが、節税につながるのです。
正しい経費処理と効率化の両立
クラウド会計と電子帳簿保存法を組み合わせることで得られる最大の効果は、**「正しく認められる経費を漏れなく計上できること」**です。
さらに、紙の保存や手作業での入力を削減することで、経理の効率化とコスト削減が実現します。
つまり、節税の結論は以下の二点に集約されます。
- 電子帳簿保存法のルールを満たして経費証憑を電子保存 → 税務リスクを減らし、認められる経費を確実に計上できる
- クラウド会計の自動化で経費漏れを防ぎ、経理コストも削減できる
なぜクラウド会計と電子帳簿保存法が節税につながるのか
1. 経費の証拠を電子的に保存できる
これまで紙で保存していた領収書・請求書は、紛失や劣化のリスクがありました。電子帳簿保存法に対応したクラウド会計なら、電子データをそのまま証拠として保存できます。
結果として、「経費が認められない」リスクを減らすことができ、節税につながります。
2. 経費計上の漏れを防げる
クラウド会計は銀行口座・クレジットカード・電子マネーと連携できるため、支出が自動で記録されます。
- 「領収書をもらい忘れた」
- 「経費入力を忘れた」
といったミスを防ぎ、本来計上できる経費を漏れなく反映できます。これにより、課税所得を正しく圧縮でき、無駄な納税を避けられます。
3. 按分計算や勘定科目の自動提案で正確性が上がる
自宅兼事務所の家賃や光熱費のように「一部を経費にできる支出」は、按分計算が必要です。クラウド会計はAIが勘定科目や按分の推奨を提示してくれるため、正確かつ合理的な処理が可能になります。
結果として、税務署から否認されにくい形で節税効果を得られます。
4. 紙の保存コスト削減=経費削減
紙での保存には、ファイル代・棚の設置・保管スペースの家賃コストが発生します。電子帳簿保存法を活用すれば、ペーパーレスでこれらのコストを削減できます。
「節税=税金だけでなく、固定費の圧縮」という観点からも有効です。
5. 税務調査に強くなる
電子帳簿保存法のルールに則って保存していれば、税務調査で証憑を提示する際にスムーズです。クラウド会計上で検索・出力が可能なので、調査対応の負担軽減=時間コスト削減 にもつながります。
税務署に「きちんと管理している」と示すことで、否認リスクを大幅に下げられるのです。
節税効果は「仕組み化」で得られる
クラウド会計と電子帳簿保存法を単に導入するだけでは効果は限定的です。
- 証憑を電子保存して経費を確実に計上する
- 自動化で漏れや誤りを防ぐ
- コスト削減と税務リスク軽減を同時に実現する
この「仕組み化」が節税の本質であり、経営の安定に直結します。
ケース別に見る活用シーンと節税効果
ケース1:フリーランスのデザイナー
- 状況:自宅兼事務所で業務、取引先との打ち合わせでカフェや出張も多い。
- 課題:レシートや請求書を紙で保存していたため、紛失や保存漏れが頻発。
活用ポイント
- 領収書をスマホアプリで撮影 → 電子帳簿保存法の要件に従いクラウド保存
- 自宅家賃・光熱費を按分して経費計上
仕訳例(家賃10万円のうち30%を経費化)
借方:地代家賃 30,000円 / 貸方:事業主借 30,000円
節税効果
・按分により年間36万円を経費化 → 所得税・住民税で数万円の節税
・領収書の紛失防止により、認められる経費が増加
ケース2:小売業を営む法人
- 状況:年商5,000万円、社員10名。仕入・経費の領収書が多く、紙保存の手間が大きい。
- 課題:税務調査で「領収書の整理が不十分」と指摘された経験あり。
活用ポイント
- 仕入先から受け取った請求書をPDFで保存し、クラウド会計に直接取り込み
- クレジットカード支払いを自動連携 → 仕訳を自動生成
仕訳例(仕入200,000円をカード払い)
借方:仕入高 200,000円 / 貸方:未払金 200,000円
節税効果
・証憑の電子保存で「経費否認リスク」が軽減
・会計処理の効率化により、経理担当の工数削減 → 人件費の圧縮効果も
ケース3:IT系スタートアップ法人
- 状況:社員5名、フルリモート勤務。クラウドサービス利用料が多い。
- 課題:経費の領収書が電子メールで届くため、紙で印刷保存するのが非効率。
活用ポイント
- SaaS利用料(クラウドサービス)請求書をメール添付PDFのままクラウド会計に保存
- 電子帳簿保存法の「電子取引データ保存要件」に従って管理
仕訳例(クラウドサービス利用料 15,000円を口座引落し)
借方:通信費 15,000円 / 貸方:普通預金 15,000円
節税効果
・クラウドサービス利用料を漏れなく経費化
・紙出力・ファイル保存不要 → ペーパーレス化で年間数万円のコスト削減
ケース4:出張が多い営業職(個人事業主)
- 状況:全国を移動しながら営業活動、交通費・宿泊費が多い。
- 課題:領収書を持ち帰ってから入力するため、経費漏れが多発。
活用ポイント
- 出張中にスマホで領収書を撮影し、即クラウド保存
- 交通系ICカードをクラウド会計に連携 → 自動仕訳
仕訳例(新幹線代 12,000円をICカードで支払った場合)
借方:旅費交通費 12,000円 / 貸方:未払金 12,000円
節税効果
・漏れなく経費計上できるため、年間で数十万円規模の所得圧縮が可能
・移動中でも処理が完結し、作業効率も大幅に向上
具体例から見えるポイント
- 電子帳簿保存法に対応した保存が前提条件
→ ルールを守れば税務署に否認されにくい - クラウド会計の自動連携で漏れを防げる
→ 銀行口座・カード・ICカードとの連携が効果的 - 仕訳ルールを理解して調整することが重要
→ 自動仕訳任せにせず、必要に応じて科目修正
導入前に準備すべきポイント
クラウド会計と電子帳簿保存法を最大限に活用するには、導入前の準備が重要です。
- 事業用口座・カードの分離
プライベート支出と混ざらないよう、事業専用の口座やカードを用意。 - 証憑データ保存方法の確認
利用するクラウド会計ソフトが電子帳簿保存法に対応しているかをチェック。 - 社内ルールの策定
領収書の撮影ルール、データ保存先、修正時の記録方法を明文化する。
実践的な運用ステップ
ステップ1:クラウド会計と金融機関を連携
銀行口座・クレジットカードを連携させ、支出データを自動で取得。経費計上漏れを防ぐ仕組みを構築。
ステップ2:電子帳簿保存法に沿って証憑を保存
領収書や請求書をスマホで撮影し、クラウド会計にアップロード。タイムスタンプや修正履歴を確実に残す。
ステップ3:仕訳を定期的に見直す
自動仕訳をそのまま使うのではなく、勘定科目が正しいか確認。交際費・会議費、消耗品費・固定資産などは特に注意。
ステップ4:税理士と共有・レビュー
クラウド会計ならリアルタイムでデータ共有可能。月次や決算前に専門家のチェックを受け、税務リスクを低減。
運用を継続するためのチェックリスト
- 領収書は撮影して即保存しているか?
- 按分の根拠(面積比・使用時間比)を残しているか?
- 電子保存した証憑にタイムスタンプが付与されているか?
- 自動仕訳を必要に応じて修正しているか?
- 税制改正や電子帳簿保存法の最新ルールを確認しているか?
クラウド会計と電子帳簿保存法で得られる効果
- 経費計上の漏れを防止 → 節税チャンスを逃さない
- 証憑管理の電子化 → 税務署に否認されにくい会計処理
- ペーパーレス化 → 保管コストを削減
- 業務効率化 → 本業に集中できる時間を確保
まとめ
クラウド会計と電子帳簿保存法を組み合わせれば、
- 認められる経費を漏れなく計上し、
- 税務リスクを避けつつ、
- 経理効率化とコスト削減を同時に実現できます。
重要なのは、仕組みを正しく理解して運用することです。
クラウド会計の便利さを活かしながら、電子帳簿保存法に対応した証憑管理を徹底すれば、節税効果を最大限に享受できるでしょう。

